地方の公共交通をどのように持続的に運営していくか

長崎公共交通労働組合 委員長 右田 洋一

 

 地方の公共交通、特にバス事業に関しまして公営交通の立場から提言させて頂きます。

 公営バス事業の現状

初めに、公営バス事業の現状ですが、モータリーゼーシヨンの急速な発展により、公共交通機関から自家用車への転換が進み、路線の半分以上が赤字となりました。それに追い打ちをかけるように2000年の貸切バス事業の規制緩和、2002年の乗り合いバス事業の規制緩和があり、民営バスや他種運輸関係の参入が容易となって、公営バスの黒字路線への乗り入れが進んでいます。そのため、現在赤字路線は全体の7割から8割となっています。

民営バスも自家用車の普及の影響で収入の落ち込みが起こっているのですが、その穴埋めに公営バスの黒字路線が必要になったのは当然の事だと思います。

 民営バスは相互乗り入れを行う場合、現行料金より安い運賃を設定し、お客様の取り込みを図る場合が殆どで、こちらもその安い料金に合わせざるをえません。

つまり、黒字路線に入られたあげく、料金も値下げしますので大きな収益の落ち込みが発生します。

 規制緩和が行われる前は、官民バス事業者双方の路線における住み分けが出来ていましたので、黒字路線の収益により過疎地の赤字路線を維持できていました。

ところがその黒字路線の収益が落ち込む事により赤字路線の維持が難しくなっています。

 民営バスは、当然利益が上がる路線を中心にしか走りませんが、公営バスは利益が出ないからと簡単に撤退する訳にはいきません。

そのため赤字路線周辺の自治体等に路線を維持するための補助をお願いしているのですが、そういった過疎地の自治体に十分な補助を出せるだけの財源が無いのが実情です。

 国からの補助が全く無いわけではありませんが、黒字路線のみに民間が入る今の状況ではとても赤字路線の持続的運営は難しいのです。

 このような事から、過疎地の運行を主体としていた公営バスの多くは経営が難しくなり、民営化が加速しています。

 国は「独立採算」や「受益者負担」を大上段に掲げています。しかし、過疎地の限界集落を点として結んで運行するようなバス事業は成り立ちません。

 規制緩和の導入で、その恩恵を受ける事が出来る人は都市部と地方の中心部の人だけであり、高齢化が進みバスを必要とする過疎地では、バスの減便や最悪完全撤退など、生活の足を奪う方向にしか進んでいません。

民営化すると赤字路線は切り捨てられるからです。

 黒字路線には参入され、赤字路線は維持しなければならない公営バスが生き残れる道は殆どありません。

過疎地の赤字路線を維持するには

規制緩和によって過疎地の足が奪われているのはお分かりいただけたと思います。

では、赤字路線を維持するにはどうしたらいいでしょう。

 それには規制緩和が始まる前のように、官民バス事業者がそれぞれの立場で住み分けをするしかないと思います。

民間バスが利益の出る都市部中心の路線を走るのなら、公営バスは過疎地の路線を主体に走ります。

 その場合公営バスは事業を維持できる収益は上がりませんので補助が必要ですが、その補助も地方自治体だけに押し付けるのではなく、国が全面的にバックアップしてもいいのではないでしょうか。

 国は地方の活性化とか地方が主役などと大義名分を掲げていますが、実際は都市部中心の政策が行われています。

 高齢化が進み、へき地難民と言われる人たちの大事な足を維持するには、今規制緩和等によって経営が難しくなっている各地の公営バスを国の責任によって運営し活用するのが最善の策と考えます。

 ここ数年、コンパクトシティーと言う言葉を耳にするようになりましたが、田畑や漁場を都市部に動かす訳にはいきません。

また、食料自給率が先進国の中で飛びぬけて低いのはご承知の通りであり、それに追い打ちを掛ける様な政策は如何なものかと考えます。

 もっと食料生産の場である過疎地の方々の事を考えた交通施策を強く望みます。

 

 最近は高齢者による悲惨な交通事故の報道を目にする機会が増えました。

免許証の自主返納を促す方策も官民問わず出されて、私たち長崎県営バスでも免許返納者パス制度という割引制度を設けて推進しております。しかしそれらも都市部や平野部に住まわれている高齢者には有用でしょう。しかし山間部などの過疎地に住まわれている方には、車は生活必需品であり、バスの減便、撤退が進めばなおの事です。

 バスを利用したくとも、必要とするだけの便数が無かったりすると、自家用車に頼らざるをえません。

規制緩和による弊害

ここまで述べてきた事は、モータリーゼーションの急速な変換と規制緩和が発端となっています。

規制緩和により業界への参入・撤退が容易になり、他業種からバス事業への参入が起こりました。

その結果、整備不良車両の増加、運転手の質の低下を招いたのは、事故件数の増加からも明らかです。

 長崎県でも他業種からの参入があり一時撤退していた路線がありますが、赤字を改善できず、すぐに参入業者は撤退し、地域住民のために再び私たちが走らせている路線もあります。

 黒字路線への民間バス参入は前にも述べましたが、それまで黒字路線があったから赤字路線への補てんが出来ていたのが、それも難しくなりました。

 規制緩和による弊害は、先に導入したアメリカの航空輸送産業でも問題視されています。

業者間で競争をさせて、運賃の引き下げやサービスの向上をもたらすと言われていました。確かに一時的に運賃は下がりますが小規模の企業は過度の競争に付いていけず、資本力のある大企業の吸収合併が進みます。

結局最後は数社の大企業が独占する事となり、収益の独占と都市部重視、へき地切り捨てが起こります。

 大企業と都市部の人にしか恩恵をもたらさない規制緩和は、日本国憲法第14条の法の下の平等から大きくかけ離れた政策と言わざるを得ません。都市部の人だけでなく、過疎地の人にも恩恵をもたらす方策を今一度、論議すべきと考えます。

 

 次に人員不足に関してですが、私たちは要請行動の中で国に、大型二種免許の取得補助と魅力ある職場の創生による職場への定着を訴えてまいりました。

 大型二種免許取得への補助は県の取り組みが始まり、県営バスでは独自の免許取得制度を設けて大きな成果を上げております。

こうした制度を利用して入局される方が増えている事に感謝致します。

 後はせっかく来られた方が定着出来るよう給与面、働きやすい環境作りの政策実行をお願いします。

残念ながら、せっかく二種免許取得制度を活用して入られたのに、あまりに安い給料と劣悪な職場環境に依って退職される方が多いのが現状です。

 まとめ

 地方の公共交通、特にバス事業に関しまして公営交通の立場から提言させて頂きます。

1. 民間バスが都市部なら公営バスは僻地と路線の住み分けをして、それを維持できる財源を国が全面的にバックアップすること。

 

2. 劣悪な職場環境の是正指導と、給与の改善を促すこと。

 

以上私たち公営バスの提言とさせて頂きます。